大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成2年(わ)447号 判決

本籍

茨城県鹿島郡鉾田町大字鉾田二、〇二〇番地の六

住居

同町大字烟田一九八番地の七

会社役員

麻生弘敏

昭和一五年一〇月三〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官曽木徹也及び弁護人糸賀良徳各出席のうえ審理を遂げ、次の通り判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金五、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金八万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、茨城県鹿島郡鉾田町大字烟田一、二一三番地の三五及び同町大字烟田一九八番地の七において、「ニュー麻生」の屋号で結婚式場、寿司店等を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上金額の一部を除外する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和六一年分の実際の所得金額が五、二五七万二、七五五円で、これに対する所得税額が二、三六二万二、六〇〇円であるにも拘らず、同六二年三月一六日、所轄税務署である同県行方郡潮来町第字延方甲一、三五八番地所在の潮来税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一、〇八九万九、〇五〇円で、これに対する所得税額が二二一万八、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により昭和六一年分の正規の所得税額と右申告にかかる所得税額との差額二、一四〇万三、八〇〇円を免れ

第二  昭和六二年分の実際の所得金額が一億四、七二五万九、〇二一円で、これに対する所得税額が七、九八一万三、三〇〇円であるにも拘わらず、同六三年三月一五日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五三四万四、五五七円で、これに対する所得税額が五四万一、五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により昭和六二年分の正規の所得税額と右申告にかかる所得税額との差額七、九二七万一、八〇〇円を免れ

第三  昭和六三年分の実際の所得金額が一億三、七三五万九、八六四円でこれに対する所得税額が七、〇三二万九、一〇〇円であるにも拘わらず、平成元年三月一五日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四九一万一、〇〇二円で、これに対する所得税額が三七万五、二〇〇円である旨の虚偽の所得税額確定申告書を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もつて、不正の行為により昭和六三年分の正規の所得税額と右申告にかかる所得税額との差額六、九九五万三、九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一  潮来税務署長作成の「回答書」と題する書面二通

一  麻生君子(二通)、横田美恵、田山君子の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  大蔵事務官星 登志夫作成の売上調査書

一  右同作成の仕入、租税公課、荷造運賃、水道光熱費、旅費交通費、通信費、広告宣伝費、接待交際費、損害保険料、修繕費、消耗品費、減価償却費、福利厚生費、給料賃金、利子割引料、地代家賃、退職金、容器包装費、燃料費、事務用消耗品費、玉代、管理諸費、賃借料、除却損、雑費、青色専従者給与、青色申告控除額、事業専従者控除額、不動産所得、利子所得、雑所得各調査書(各一通)

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  被告人の当公判廷における供述

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、罰金刑については情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金五、五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金八万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する。)被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項一号を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

被告人の本件犯行は、家族を含め税法に関する知識に乏しいという事情があつたにせよ、青色申告者でありながら、数年間にわたり事業所得の大半を隠すという大胆、悪質な手口で、脱税額も起訴にかかる分だけで一億七、〇〇〇万円余に及ぶ大規模なもので、国庫の利益を甚だしく害したばかりでなく、余裕に乏しい生活の中からまじめに税金を納付している地元住民の納税意欲に与えた影響も無視できないところであって、被告人の刑事責任は重大である。ただ、本件が発覚したことにより、(当然のことではあるが、)過去にさかのぼって本税のほか重加算税、延滞税等を納付することとなり、不正に取得した利益を相当大幅に上回る経済的な制裁を既に課されていること(本判決による罰金もこれに加わる)、改悛の情が顕著で、その一端として贖罪寄付もしていること、この種事犯は初めてで、平素はまじめに職務に精励していること等の事情を考慮し、懲役刑の執行を猶予することとした。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 大東一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例